大人のADHD
「忘れ物・紛失」
当院では18歳以上の方を対象に発達障害の診断・治療を行っております。
大人のADHDで見られやすい「忘れ物・紛失」について解説します
なぜ忘れ物・紛失が起きやすい?
忘れ物や紛失が起こりやすい背景には、ADHDでみられやすい注意の向け方の偏りや、ワーキングメモリーの弱さが関わっていると考えられます。
ワーキングメモリーとは、必要な情報を一時的に頭の中に保ちながら行動する力のことで、この働きが弱いと、「持って行こうと思っていた物」や「さっき置いた場所」をうまく保てず、行動の途中で抜けやすくなります。
また、別のことに気を取られると、もともと意識していたことが頭の中から離れやすく、結果として置き忘れや持ち忘れにつながることがあります。
さらに、物の置き場所や持ち物の準備が毎回一定していないと、その場その場で判断する負担が増え、忘れ物や紛失が起こりやすくなります。
忘れ物・紛失が起きやすい状況
忘れ物や紛失は、急いでいるとき、予定が立て込んでいるとき、普段と違う行動をするときに起こりやすくなります。
たとえば、朝の支度を急いでいる場面、出かける直前に別のことを頼まれた場面、仕事や家事を同時に進めている場面では、注意が分散しやすく、持ち物の確認が抜けやすくなります。
また、置き場所が決まっていない物は、その都度違う場所に置かれやすく、「どこに置いたか思い出せない」ということにつながります。
さらに、疲れているときや気持ちに余裕がないときは、普段ならできている確認や整理が難しくなり、忘れ物や紛失が増えやすくなります。
こうした困りごとは、その人の性格というより、状況の影響を受けながら起きていることも少なくありません。
忘れ物・紛失への対策例
① 置き場所を固定する
鍵、財布、スマートフォン、社員証など、よく使う物は毎回同じ場所に置くことが大切です。使うたびに置き場所が変わると、「どこに置いたか」をその都度思い出す必要があり、紛失しやすくなります。帰宅したらここに置く、出かける前はここから取る、という流れを決めておくと、探し物が減りやすくなります。
② 出かける前の持ち物を見える化する
持って行く物を頭の中だけで管理しようとすると、途中で別のことに気を取られたときに抜けやすくなります。よく必要になる持ち物は、紙やスマートフォンのメモに一覧にしておき、出発前に確認する方法が役立ちます。毎回同じ順番で確認するようにすると、忘れ物を減らしやすくなります。
③ 前日に準備を済ませておく
朝は時間に追われやすく、注意も散りやすいため、忘れ物が起こりやすい時間帯です。持ち物の準備を前日のうちにしておくと、当日の負担を減らすことができます。仕事や通院、外出で必要な物は、前日にバッグへ入れて玄関近くに置いておくなど、出発直前に考えなくてよい状態を作ることが助けになります。
④ 物の数を増やしすぎない
持ち歩く物や管理する物が多いほど、注意を向ける対象が増え、紛失や持ち忘れが起こりやすくなります。普段あまり使わない物は持ち歩かない、財布やカード類を整理する、バッグの中身を定期的に見直すなど、管理する物を必要最低限にすると、忘れ物や紛失を減らしやすくなります。
⑤ 必要に応じて薬物療法も検討する
忘れ物や紛失が多く、仕事や日常生活に大きな支障が出ている場合には、薬物療法が役立つこともあります。薬によって不注意が和らぐことで、持ち物の確認がしやすくなったり、途中で気がそれにくくなったりすることがあります。ただし、薬だけで全てが解決するわけではなく、置き場所の固定や持ち物管理の工夫とあわせて取り入れることが大切です。
受診を考えたほうが良いケース
忘れ物や紛失は誰にでも起こることがありますが、その頻度が多く、生活や仕事に繰り返し支障が出ている場合には、一度相談を考えてよい状態です。
たとえば、必要な物を何度も持ち忘れて仕事や通学に影響が出る、鍵や財布、スマートフォンなど大事な物をたびたびなくしてしまう、提出物や必要書類を忘れてトラブルになる、といったことが続く場合は、単なるうっかりではなく背景に発達特性が関わっている可能性があります。
ADHDでは、症状があることそのものよりも、それによって日常生活や社会生活にどの程度の困りごとが生じているかが大切とされています。
また、忘れ物や紛失だけでなく、先延ばし、ケアレスミス、予定管理の苦手さ、集中の続きにくさ、衝動的な言動など、ほかにも似た傾向がみられる場合には、あわせて評価を考える意味があります。
とくに、子どもの頃から忘れ物が多かった、物をなくしやすかった、片づけが苦手だった、といった傾向が続いている場合には、現在の困りごととのつながりを確認することが役立ちます。成人のADHDでも、物をなくしやすい、忘れっぽい、課題の開始が苦手といった特徴はよくみられます。
さらに、疲労、抑うつ、不安、不眠、強いストレスがあると、もともとの不注意がより目立ちやすくなることがあります。「最近特に忘れ物が増えた」「以前より頭が回らない感じがする」「気持ちの落ち込みや不安もある」という場合には、ADHDだけでなく、気分や睡眠の問題が重なっていないかを含めて整理することが大切です。
何度工夫しても同じことで困り続けている場合や、自分を強く責めてしまっている場合には、早めに相談することで、背景を整理し、自分に合った対策を考えやすくなります。